2015年9月29日火曜日

パキケトゥス  Pakicetus


パキケトゥス
Pakicetus sp.
大きさ:体長 12m
発見地:パキスタン、インド
時代:古第三紀始新世前~中期(約5600万年前~約4000万年前)

パキケトゥスはパキスタンから見つかった哺乳類で、最古のクジラ類とされていますが、しっかりとした四肢を持ち、また歯の特徴や頭頂部に寄った眼の位置、密度が高く重い肋骨等から水陸両生で、淡水域に生息し魚食性の動物だったと考えられています。
クジラ類の起源については長年謎でしたが、分子系統解析の結果、クジラ類が有蹄類、中でもカバ類に近いことがわかりました。パキケトゥスの距骨(かかと部分の骨)には有蹄類の距骨に似た構造があります。

(イラスト・山本浩司、文・Kris S.

主な参考資料
Thewissen, J. G. M.; Williams, E. M.; Roe, L. J.; Hussain, S. T. (2001). "Skeletons of terrestrial cetaceans and the relationship of whales to artiodactyls". Nature 413 (6853): 277-281.
Thewissen, G. M.; Cooper, L. N.; George, J. C.; Bajpai, S. (2009) “From Land to Water: the Origin of Whales, Dolphins, and Porpoises”. Evo Edu Outreach 2: 272288. 

 

2015年9月7日月曜日

メトリオリンクス Metriorhynchus




メトリオリンクス
Metriorhynchus sp.
大きさ:全長3m
発見地:イギリス、フランス、ドイツ、スイス
時代:ジュラ紀中期~後期(約16700万年前~約15300万年前)

化石ワニは現在のワニよりも多様な姿をしており、多様な環境に適応して多様な生活をしていました。海生ワニのメトリオリンクスはその一例です。
メトリオリンクスは完全水生のワニです。手足は現生のものに比べると小さく、骨が平らになってヒレ状になっていました。体は流線型で、サメ様のヒレのある尾を持っていました。現生のワニにあるような皮骨板は失われ、素早く泳ぐのに適した体になっていました。
メトリオリンクスの胃の部分からはアンモナイト、べレムナイト、翼竜の骨、魚などが見つかっています。また、メトリオリンクスのものと思われる歯型が残る、首長竜の首の骨も見つかっています。獲物を捕まえて食べることもあれば、大型生物の死骸を漁ることもあったようです。メトリオリンクスは塩類を排出するための腺が発達しており、海水を飲んだり、海水と同じ浸透圧の獲物を大量に食べたりすることができたようです。
メトリオリンクスをはじめとする海生ワニの卵や幼生は、2015年現在見つかっていません。ワニ類に胎生のものが見つかっていないことから、海生ワニは卵生で、陸に上がって産卵をしていたのではないか、という説もあります。
 (イラスト・Shu-yu Hsu、文・Kris S.)

今回のイラストは、台湾の作家・ Shu-yu Hsuさんの作品です。
 Shu-yu Hsuさんは、学研の図鑑LIVE・恐竜のARアプリ用のパラサウロロフス骨格CG等も担当して貰っています。 (ふらぎ)





:
参考文献
Young, M. T., S. L. Brusatte, M. Ruta, and M. B. Andrade. 2010. The evolution of Metriorhynchoidea (mesoeucrocodylia, thalattosuchia): an integrated approach using geometric morphometrics, analysis of disparity, and biomechanics. Zoological Journal of the Linnean Society, 2010, 158, p. 801–859

Mueller-Töwe IJ (2006) Anatomy, phylogeny, and palaeoecology of the basal thalattosuchians (Mesoeucrocodylia) from the Liassic of Central Europe. Unpublished PhD thesis, Universität Mainz, Germany.

2015年8月7日金曜日

メリテリウム Moeritherium

メリテリウム Moeritherium
発見地:アフリカ
大きさ:肩高70cm、体長3m
時代: 新生代古第三紀始新世中期~後期(3700万年前~3500万年前)

メリテリウムは原始的な長鼻類の仲間で、体の大きさは現生のバク程度です。現生のゾウのような長い鼻はなかったようですが、物をつかむことのできる上唇を持っていたようです。前歯は小さな牙のようになっていましたが、現生のゾウのように長く伸びたものではなく、どちらかというとカバの牙に似た形をしていました。
メリテリウムの化石が河成層から見つかること、足の骨と骨盤のつながる部分が小さく,後ろ足が退化していたこと、歯の形状、また歯のエナメル質の同位体比が現生の水棲動物に似ていることから、メリテリウムは半水棲で、川辺や湿地の植物を食べていた可能性が指摘されています。
メリテリウムは原始的な長鼻類ではありますが、現生のゾウの直接の祖先ではないと考えられています。
  (イラスト・山本浩司、文・Kris S.

参考文献
・「新版 絶滅哺乳類図鑑」(冨田 幸光 著)
・Delmer, C., Mahboubi, M., Tabuce, R. & Tassy, P. 2006. "A new species of Moeritherium (Proboscidae, Mammalia) from the Eocene of Algeria: new perspectives on the ancestral morphotype of the genus." Palaeontology 49 (2), 421-434.
・Liu, A.G., Seiffert, E.R., Simons, E.L., 2008. Stable isotope evidence for anamphibious phase in early proboscidean evolution. Proc. Natl. Acad.Sci. U S A 15, 5786–5791.

2015年3月25日水曜日

プラティベロドン Platybelodon

プラティベロドン・グランゲリ
  Platybelodon grangeri
大きさ:肩高 約2m
発見地:アフリカ、ヨーロッパ、アジア、北アメリカ
時代:新第三紀中新世中期(15001400万年前)

「平らな歯」を意味するプラティベロドンは、その名の通りシャベルのように平たく大きな下あごと歯をもつ奇妙な姿をしていました。上あごは下あごのように平らではなく、ゾウに似た鼻が付いていた可能性があります。今回のイラストもその説に合わせ、幅の狭い細い鼻として描いています。プラティベロドンでは性的二形性が確認されており、オスはより発達した鼻を持っていたようです。また様々な成長段階の化石も見つかっており、未成熟個体はメスに近い姿をしていたようです。
プラティベロドンの化石が見つかる場所は河成層を含んでおり、このことから彼らは川辺や湿地帯に生息していた可能性があります。シャベル状の下あごは湿地帯の土を掘り返すのに使われていたというがある一方で、下あごの歯の先の摩耗状態から、この歯で刈り取った植物を鼻で口に運んで食べていた、という説もあります。

  (イラスト・ヤマモト生物模型、文・Kris S.


主な参考資料

・Osborn, H.F. and Granger, W. 1931. The shoveltuskers, Amebelodontinae, of central Asia. American Museum Novitates 470: 112

・Osborn, H.F. and Granger, W. 1932. Platybelodon grangeri, three growth stages, and a new serridentine from Mongolia. American Museum Novitates 537: 113.
Wang, S., He, S., and Chen, S. 2011. The Gomphotheriid Mammal Platybelodon from the Middle Miocene of Linxia Basin, Gansu, China. Acta Palaeontologica Polonica 58 (2): 221-240.

・Lambert, W.D. 1992. The feeding habits of the shoveltusked gomphotheres: evidence from tusk wear patterns. Paleobiology 18: 132147.

2015年3月17日火曜日

メソダーモケリス Mesodermochelys


メソダーモケリス ウンドゥラトゥス
Mesodermochelys undulatus
全長:約1.5m
 発見地:日本(北海道、兵庫県、香川県) 
時代:白亜紀後期


メソダーモケリスは、オサガメ科に属する絶滅したウミガメの仲間です。現生種や新生代のオサガメは甲羅の骨が大きく退化していますが、原始的なオサガメであるメソダーモケリスではこの退化があまりありません。しかし、メソダーモケリスの甲羅の骨には、「鱗板」(甲羅の骨を覆う角質の板)の存在を示す溝がほとんどありません。鱗板はこの段階でほとんど退化してしまっていたようです。甲羅の中央に鱗板の名残が残っています。
メソダーモケリスは顎を動かす筋肉がよく発達していたために噛む力が強く、また口の中には上下に向き合うように配置する隆起があったために、食物を細かく砕くことができたようです。このため、メソダーモケリスは海中の様々な生物を食べることができたようです。これは、現生のオサガメがクラゲを常食する極端な偏食家であることと対照的です。
白亜紀後期のオサガメ科のカメは、日本以外からはほとんど見つかっていません。メソダーモケリスの化石もいずれも日本から発見されています。 
今回のイラストは、穂別博物館の全長約1.5mの復元骨格を基に描いていますが、他の標本から推測すると、全長2m以上にもなったようです。
 (イラスト・ふらぎ、文・Kris S.





メソダーモケリス復元骨格 穂別博物館にて撮影


 :
主な参考資料

兵庫県洲本市の和泉層群(後期白亜紀)から産出したウミガメ類化石について(2014.1.26)
http://www.hitohaku.jp/research/h-research/kaseki-20140126news.html

淡路島で発見された化石はウミガメ祖先の頭骨 平山廉教授(国際学術院)らの調査で判明(2014. 1. 30)
http://www.waseda.jp/top/news/6549

平山廉, 2012, 北海道上部白亜系から見つかったMesodermochelys(カメ目:ウミガメ上科:オサガメ科)の新資料について. むかわ町立穂別博物館研究報告, 27, 17-22.

中島保寿・櫻井和彦・平山廉, 2011, むかわ町立穂別博物館の所蔵するカメ化石. むかわ町立穂別博物館研究報告, 26, 1-34.

平山 廉・藤井 明・高橋啓, 2006, 香川県高松市塩江町の上部白亜系和泉層群より産出したオサガメ科化石. 化石, 80, 17-20.

平山 廉 「カメのきた道 甲羅に秘められた2億年の生命進化」 NHK出版

2015年1月16日金曜日

タラッソクヌス Thalassocnus

   タラッソクヌス・ナタンス
Thalassocnus  natans

全長:約2m
発見地:ペルー
時代:後期中新世(約600万年前)

 :
タラッソクヌスは約800150万年前に生息していたナマケモノの仲間で、水をかくのに適した後肢や水中での姿勢維持に役立つ力強い尾など、水中生活に適した体をしていました。タラッソクヌス属には異なる時代、異なる水棲適応の度合いを示す5種が確認されており、その中のタラッソクヌス・ナタンスは約600万年前のペルーの海成層から発見された種です。
 本種の歯化石には線状の傷が多く見られますが、これは本種が食物とともに多量の砂を噛んでいたことを意味します。この事から、本種は海浜に打ち上げられた植物やごく浅い所にある植物を食べていたと考えられています。今回のイラストもその説に基づき、浅瀬にいる姿で描いています。
同じタラッソクヌス属の仲間でも、本種より後の時代に生きていた種ではこの傷がほとんど見られません。彼らはより海中の深い場所の植物を食べていたために、砂をあまり噛まなくて済んだようです。また、骨も新しい時代の種になるほど肥大化して密度も増し、それはより水中生活に適した体を持っていた事を示すと言われています。
(解説文・Kris S)

 今回は、タラッソクヌス属の中でも、水棲適応は中程度(?)と考えられているナタンス種を描いてみました。他の種のイラストも描いてみたいのですが、全身骨格についてナタンス種しか資料が見つからず、他の種に関してはほぼ頭骨のみでした。今後、他の種の資料が手に入れば、水棲適応の差も考慮してイラストに出来ればと思っています。
(補足文・ふらぎ)
  

主な参考文献 
Muizon, C. de; McDonald, H. G. (1995-05-18). "An aquatic sloth from the Pliocene of Peru". Nature (Nature Publishing Group) 375 (6528): 224–227.

Amson, E.; Muizon, C. de; Laurin, M.; Argot, C.; Buffrénil, V. de (2014). "Gradual adaptation of bone structure to aquatic lifestyle in extinct sloths from Peru". Proceedings of the Royal Society of London, Series B (Royal Society of London) 281 (1782): 1–6.

Muizon, C. de; McDonald, H. G.; Salas, R.; Urbina, M. (June 2004). "The evolution of feeding adaptations of the aquatic sloth Thalassocnus". Journal of Vertebrate Paleontology (Society of Vertebrate Paleontology) 24 (2): 398–410.

(イラスト・ふらぎ、文・Kris S.